
バーイードよりすごい世界最強馬フライトライン。それでも歴史的名馬より劣ると言われる理由とは
現在世界最強馬といえば、芝のバーイード、ダートのフライトラインと言われています。
どちらも無敗の名馬なのですが、特にフライトラインはバーイードよりも高いパフォーマンスを見せており
現役最強馬だと言われています。
しかし有識者の中には、フライトラインは歴史的名馬たちと比較すると劣るという意見もあります。
今回はそんなフライトラインが一体どれほど強いのか、
そしてなぜ歴史的名馬達には劣ると言われているのかについてご紹介します。
4歳にして世界最強馬となったフライトライン
フライトラインは2018年3月14日に、アメリカで生まれました。
父タピット、母フェザード、母父インディアンチャーリーという血統です。
タピットは日本でもテスタマッタやラニの父親としても知られていますが、米国ではかなり大人気の種牡馬です。
特に大レースで勝利する馬を多く出しており、2014年には産駒による北米年間最多収得賞金の記録を更新しリーディングサイアーとなっています。
その後も常にリーディングの上位に位置しており、種付料は2022年時点で18万5000ドル(約2600万円)となっています。
特にダートの長距離レースで強く、アメリカの三冠競走の1つでダート2400mにて争われるベルモントステークスでは、
2014年に産駒が初出走し、2022年時点ですでに4勝しています。
この4勝というのは、米国の歴史に残る大種牡馬レキシントンに並ぶ最多記録となっています。
まだタピットは健在のため、今後この記録を塗り替える可能性は十分にある状況です。
そして母父のインディアンチャーリーは現役時代にサンタアニタダービーを制し、
種牡馬としてアンクルモーという大種牡馬を輩出した馬です。
母父としても日本でスプリンターズステークス3着のシヴァージなどが出ています。
長くなりましたが、このような血統で生まれたフライトラインは、2019年のファシグ・ティプトン・サラトガ1歳セールにて100万ドルで落札されました。
この時のセールでは3番目に高い落札価格で、当時からかなり評価されていたことがわかります。
調教師も2015年の最優秀3歳牝馬ステラーウインドや、2018年の最優秀ダート牡馬アクセラレイトなどを管理していた
ジョン・サドラー師に決まり万全の態勢でデビューに向けて調教が進められました。
しかし翌年の2020年1月、フライトラインにアクシデントが襲います。
調教の準備をしている時に、トモに大ケガを追ってしまい長期に渡っての治療をしなければならなくなったのです。
そのため育成が遅れてしまい、デビューは3歳となった2021年4月にまで遅れることとなります。
Expand Allデビューから圧倒的な成績を見せるフライトライン
デビュー戦となった3歳未勝利は、ダート1200mで開催されましたが13.1/4馬身差の大楽勝で勝利します。
しかしアメリカの三冠は5月から6月にかけて開催されるため、そこには間に合いません。
そのためゆったりとしたスケジュールを組んだ陣営は、2戦目を9月のアローワンスに設定し、
そこもフライトラインは12.3/4馬身差で圧勝します。
デビューから2戦とも10馬身以上の差をつけて勝利したことから、調教師は続く3戦目を米国最高峰のレースの1つである
ブリーダーズカップ スプリントにしようと要望しますが馬主側が拒否をします。
その理由は不明ですが、ブリーダーズカップだと間隔が短すぎると判断したのかもしれません。
結局3戦目は、2戦目から3ヶ月半の間をあけてダート1400mのG1マリブステークスとなりました。
ここでは出走を調教師が熱望していたブリーダーズカップ スプリントで2着に入ったドクターシーヴェルなども出走していましたが、
フライトラインはそうした強豪も相手にすることなく、11.1/2馬身差で勝利します。
こうして一線級の実力を持つことを証明したフライトラインは、米国の中でも注目を集めることとなります。
翌年2022年の4歳シーズンは、初戦を3月のサンカルロスステークスとする予定でしたが、2月の調教後に後肢の飛節を痛めてしまったため回避します。
これにより4歳初戦は6月のメトロポリタンハンデ(ダート1600m)となり、ここでは前年のブリーダーズカップ スプリント勝ち馬のアロハウエストや、
G1を含む3連勝中のスピーカーズコーナーなどの強豪が揃いました。
それでもこれまでの圧倒的なパフォーマンスから1番人気に支持されたフライトラインは、スタートで出遅れ二度も進路を塞がれる不利がありながらも
最後は流して2着に6馬身の差をつけて優勝します。
こうして4戦4勝としたフライトラインは、3ヶ月後の9月にパシフィッククラシックステークスへと出走します。
パシフィッククラシックでの圧倒的なパフォーマンス
これはダート2000mで争われるレースで一気の距離延長となり、さらにこの年のドバイワールドカップを勝利したカントリーグラマーや、
サンタアニタハンデを勝利したエクスプレストレインなどといった、北米の中でもトップクラスの馬が揃いました。
そのためさすがのフライトラインも苦戦するのではと見られていましたが、そのような不安は杞憂に終わります。
レースでは逃げ馬をマークすると途中で競り落とし、直線は少し追っただけでグングンと後続を突き放します。
そして気がつけば2着のカントリーグラマーに19.1/4馬身差をつける大楽勝となりました。
これまで短距離を使ってきたフライトラインでしたが、中距離でその能力を更に覚醒させたのです。
これは父タピットの血統から言えば当然の結果だったのかもしれませんが、2着となった相手はドバイワールドカップの勝ち馬です。
この年のドバイワールドカップでは日本のチュウワウィザードも出走していましたが、
カントリーグラマーに2.1/4馬身差の3着に敗れています。
つまり単純計算でいくと、日本でトップクラスの実力を持つチュウワウィザードもこのフライトラインに21.1/2馬身差をつけられてしまうということになります。
こうした圧倒的な走りにより、ロンジン・ワールド・ベストレースホース・ランキングでフライトラインは139というレーティングを獲得します。
これまで北米調教馬における最高レートはシガーの135で、フライトラインはこの記録を大幅に更新しました。
このフライトラインより上のレートとなっている馬はフランケルの140のみとなっています。
芝で世界最強馬と言われているバーイードも最高レートは135のため、フライトラインこそが現役最強馬であると言うこともできます。
アメリカでよく用いられている、ベイヤー指数というスピード指数でもこのパシフィッククラシックは126という数値を叩き出しており
これは北米における過去18年に渡るレースの中で最高の数値となっています。
これほどの圧倒的なパフォーマンスを見せたフライトラインは、次走ブリーダーズカップ クラシックでも8馬身差をつけて楽勝しました。
不安点は、これまで間隔を詰めて使ってきていないことでしたが、それも問題ありませんでした。
6戦6勝という完璧な戦績で、そのまま引退を発表しました。
まさに伝説の馬となったのでした。
歴代の最強馬と比較すると劣るという意見も
このように、短距離でもトップクラスのスピードを持ちながら中距離を走るスタミナも持つフライトラインですが、
米国の中にはこれまでの最強馬たちと比較すると劣ると言う識者もいます。
その理由は、数をあまり使えていないからです。
北米の競馬では多くのレースを走り、勝つ馬が強いという認識があります。
例えばフライトラインが破るまで最高のレートを持っていたシガーは、ピークを迎えた1995年に9戦を走りそのすべてで勝利しています。
翌年の1996年にも8戦を走っており、トップクラスの馬ほど多くのG1を走ってその強さを証明してきました。
他にも伝説的名馬セクレタリアトも3歳時に12戦を走っていますし、近年の最強馬であるアメリカンファラオも3歳時に8戦7勝という成績を残しています。
そうした中でフライトラインは3歳時に3戦、4歳時も9月終了時点で2戦とかなり少ない戦歴となっています。
1つ1つのレースでは圧倒的な強さを見せていますが、さらに数をこなさないと米国では最強馬として認識されないのかもしれません。
もしそれで評価を落とすようであれば、かつてのサンデーサイレンスのように日本で種牡馬入りをしてもらいたいものですね。