
現在JRAでは騎手と調教師や馬主との間を取り持つエージェントが、大きな存在感を示しています。
なぜならエージェントが騎乗馬を確保し、担当する複数の騎手へと配分していくからです。
つまり、エージェントの営業力や考えにより、
騎手は騎乗する馬の質が変化し成績が大きく変わってしまうのです。
そのため馬券を買うにあたってもこのエージェント制度や、
最新の事情を知っていることは非常に重要となります。
そこで今回は、エージェント制度とは何なのかについてと、
2023年の注目エージェントや新しい動きがあった騎手について見ていこうと思います。
現代競馬に欠かせないエージェント制度
まずは簡単にエージェント制度について見ていきましょう。
エージェントとは、正式名称を騎乗依頼仲介者と言います。
その名の通り、調教師や馬主からの騎乗依頼を仲介する役割を担います。
一般的に騎手は馬主や調教師と交流を図り、その縁で騎乗依頼を受けます。
騎手は個人事業主ですので、特にフリーの騎手は
自ら営業をして騎乗依頼を確保しなければなりません。
しかしそうなると営業活動に時間が割かれ、肝心の騎乗がおろそかになってしまう可能性があります。
そのようなことがないよう、騎手に代わって騎乗依頼を確保するのがこのエージェントなのです。
このエージェントがいることにより、騎手は馬に乗ることに集中することができるようになります。
こうしたエージェント制度を利用した先駆けとも言える存在が、
あの岡部幸雄騎手です。
岡部騎手は国外へと積極的に遠征をしており、その経験を日本に伝えてきました。
その1つがこのエージェント制度なのです。
それまで競馬界では、騎手は厩舎に所属をし、そこの厩舎の馬に乗るということが一般的でした。
有力厩舎で可愛がられていれば、その厩舎の有力馬に乗り活躍することができる一方で
他の厩舎の馬にはあまり乗ることができないというデメリットもありました。
そうした中で、特定の厩舎へと所属をせずにフリーランスの形式で活動するというスタイルを確立したのが岡部騎手でした。
これは海外では当たり前のようにやられているもので、そうした先進的な取り組みを岡部騎手は持ち込んだのです。
具体的には1988年頃から岡部騎手は研究ニュースの記者であった松沢昭夫氏をエージェントとして、
騎乗依頼の受付と、その取捨を任せました。
このことは当時の競馬界で大いに注目され、競馬雑誌などで松沢氏の特集が組まれるなどをしたそうです。
そしてその数年後には、武豊騎手が同様に別の記者に騎乗依頼の確保と取捨を任せました。
こうしてフリー騎手とエージェントというものが競馬界に生まれ、徐々に勢力を拡大していきました。
JRAとしてもこうした存在がいることは黙認していたものの、
徐々に公正さを保つためのルール作りをする必要があると考えはじめます。
なぜならエージェントは公に認められた存在ではないにも関わらず、その影響力がかなり大きいものとなっていたからです。
例えばトップジョッキー10名を担当するエージェントがいた場合、
そこに騎乗依頼は殺到し、エージェントの気分や考えによってリーディングジョッキーが決まるという状況が生まれます。
また、調教師や騎手並に情報を得られるエージェントが馬券を購入できるとなると
公正さが失われるのではないかという懸念もありました。
他にもこうしたエージェントは、騎手が得た賞金の一部を手数料として受け取る形をとっているものの
その手数料が高額となってきており、これを放置すると税務上でもリスクが生じるという判断があったと言われています。
そうしたことからJRAでは2006年から騎乗依頼仲介者制度を創設し、その存在を公にしました。
さらに2012年にはどの騎手がどのエージェントと契約を結んでいるかを公表を開始し、
1名のエージェントにつき、3名の騎手と若手騎手1名の計4名までしか担当できないとしました。
また、2018年1月からは馬券購入も禁止とする通達を出し、公正競馬を確保できるようにと尽力しています。
このように関係性を公表し、さらに馬券も購入できないようにするといったことをしないといけないほど
現在エージェントの存在は大きなものとなっています。
そして馬券を買う側から言えば、このエージェントたちが現在どのような騎手を担当しており、
昨年からどのように変わったのかを把握することは、馬券の検討において重要な要素となります。
なぜならこれまで零細エージェントに依頼していた騎手が有力エージェントに切り替えた場合、
その年から急に成績が良くなるといったことがあり得るからです。
そんな騎手の成績を左右するとも言えるエージェントについて
2023年2月時点での一覧が発表されていましたので、
注目スべきエージェントや、2022年からの変化について見ていこうと思います。
2023年注目の騎手とエージェント
まずは現在日本一のエージェントと言われているのが、小原靖博氏です。
小原氏は岩田康誠騎手、岩田望来騎手、そして今村聖奈騎手を担当しています。
また、2月で引退した福永祐一騎手も担当しており、彼が13年連続で年間100勝を達成した際には
「なんとか年間100勝達成できるように、エージェントも気にしてくれて一生懸命良い馬を集めてくれた」
とまず最初に小原氏へ感謝のコメントを最初に述べており、
いかにエージェントの存在が大きいのかを示しました。
また、今村聖奈騎手が1年目から51勝という成績を残せたのも、
有力馬を多く確保した小原氏の活躍が大きかったと見られています。
福永祐一騎手が2月で引退したため、この後釜に誰が入るかによって
今後の競馬界の勢力図が変わっていきそうです。
もし新しい騎手を担当しない場合には、岩田望来騎手に依頼が回ってくると見られており、
彼にとって3月以降には大きなチャンスが巡って来そうです。
次に見るのは豊沢信夫氏です。
豊沢氏は現在ルメール騎手、武豊騎手、浜中俊騎手、泉谷楓真騎手を担当しています。
基本的にはルメール騎手に有力馬を集め、そこから漏れた馬が武豊騎手や、浜中騎手、泉谷騎手へと流れていく構図となっています。
ただ、武豊騎手を指名する馬主も多くそこは個別に依頼を受けているようです。
浜中騎手は過去にリーディングを獲得した騎手ではありますが、
この中では序列3番目となっており、最近の成績不調の理由の1つとして馬の質が高くないからということも見えてきそうです。
こうした2名のエージェントが競馬界で勢力を拡大しているのですが、2023年に1つ動きがありました。
それが井上政行氏の担当です。
2022年に井上氏は、川田将雅騎手専属のエージェントとして活動していました。
しかし2023年に入り、ある若手騎手も担当することとなりました。
それが、団野大成騎手です。
団野騎手はこれまでデビューから26勝、62勝、54勝と来ていましたが
4年目となる2022年には30勝に留まっていました。
これは3月に落馬し負傷していた間に、今村聖奈騎手などを始めとする後輩が活躍したことで
騎乗依頼が伸び悩んでいったことが理由として挙げられます。
そうした状況からか、これまでは松田大作騎手や永島まなみ騎手などを担当していた
吉井慎一氏とエージェント契約を結んでいましたが
2023年から井上氏へと担当を切り替えることにしました。
これにより井上氏は川田騎手と団野騎手の2名を抱えることとなりました。
川田騎手は勝ち星を上げつつ落馬事故などのアクシデントを防ぐため、
騎乗依頼を極力増やさない傾向にあります。
そのため川田騎手に依頼をしようとして漏れてしまった馬が、
今後団野騎手へと集まってくることが予想されます。
また、同じエージェントと契約をしているということから、団野騎手は川田騎手との交流の機会が増えることも考えられます。
騎乗技術や一流騎手としての日々の過ごし方などを見ることで、騎乗の質が高まることも期待できます。
実際に団野騎手が騎乗している馬を見ると、井上氏の人脈から集めてきたと思われるケースが多く見られるようになってきており、
2023年に大きく飛躍する可能性があります。
他にも多くのジョッキーがエージェントと契約をし、騎乗依頼の管理を任せていますが
特に今年は福永騎手の後釜が誰になるのかと、団野騎手の成績向上について注目したいと思います。