
地方競馬は最近売上が好調なこともあり、かなりの盛り上がりを見せています。
そしてその盛り上がりが更に増しそうな出来事が発表されました。
それは地方所属馬による海外遠征です。
今回はそんな地方競馬から世界の頂点を目指す戦いについてご紹介したいと思います。
米国のG1に挑む地方馬

今回海外遠征を発表したのは、マンダリンヒーローという馬の陣営です。
マンダリンヒーローは2020年3月20日生まれで、父シャンハイボビー、母ナムラナデシコ、母父フジキセキという血統です。
父のシャンハイボビーは現役時代にアメリカでブリーダーズカップ ジュヴェナイルなどを制した名馬です。
2014年から種牡馬入りをし、2019年より日本のアロースタッドで供用されています。
マンダリンヒーローはこのシャンハイボビーの日本における初年度産駒となります。
1歳になると、2021年の北海道サマーセールにおいて1000万円で落札されました。
そして2022年6月9日に大井競馬でデビューすると、後続に1.8秒の差をつけて勝利します。
地方競馬ではデビュー戦で大差をつけて勝利することはそこまで珍しくありませんが、
マンダリンヒーローの場合そこからさらに連勝を重ねていきました。
11月には4連勝で、大井の重賞・ハイセイコー記念に勝利したのです。
2歳シーズンを4戦4勝で終えたマンダリンヒーローは、
3歳となった今年最初のレースとして雲取賞を選びます。
そこでは昨年に2歳のNARグランプリに輝いたヒーローコールと対戦することとなり、
あと一歩というところまで迫るも2着に敗れました。
これがマンダリンヒーローの初の敗戦となりましたが、
5戦4勝2着1回というほぼ完璧な成績でここまで走っており
まだポテンシャルの底が見えていない馬でもあります。
こうして地方競馬の3歳勢の中でもトップクラスの実績を誇るマンダリンヒーローは
米国のG1サンタアニタダービーへと挑むことを表明しました。
ただ、いくら地方競馬の中では上位の存在とは言え
米国のG1に挑戦するというのは、少し飛躍しているような気がします。
過去に3歳で米国遠征を行った馬といえば
兄と姉がベルモントステークスを制している超良血馬カジノドライヴや、
UAEダービーを制し乗り込んだラニ、
JAPAN ROAD TO THE KENTUCKY DERBYで上位に入り
ケンタッキーダービーの優先出走権を得たマスターフェンサーらが思い起こされます。
いずれの馬も、中央競馬でデビューをし活躍した馬であり
カジノドライヴとラニは米国産の馬でした。
そうした中で、父が米国産ではあるものの中央競馬での実績もなく
カジノドライヴなどのような超良血でもないマンダリンヒーローの陣営は
なぜ米国遠征を決めたのでしょうか。
そこには大井競馬の努力が隠されていました。
Expand Allマンダリンヒーローが米国遠征をできる訳

マンダリンヒーローが米国遠征をすることになった大きな理由
それは大井競馬が取り組んでいる米国競馬場との提携です。
大井競馬は1995年からサンタアニタ競馬場と友好交流提携を結んでおり、
毎年サンタアニタトロフィーという重賞を開催しています。
また、その時期にはサンタアニタウィークと第して友好交流記念イベントを実施し
逆にサンタアニタ競馬場ではTOKYO CITY CUPというG3が開催されています。
こうした長年の友好関係が実を結び得られたのが、
このサンタアニタダービーへの出走枠の確保でした。
2018年から大井競馬は、G1サンタアニタダービーの出走枠を2つ確保しているのです。
このサンタアニタダービーは過去にサンデーサイレンスも出走しており、
ここをステップにケンタッキーダービーを始めとする米国の三冠レースに挑戦する馬が多くいる重要なレースです。
そんなレースの出走枠を確保したのは、まさに大井競馬の努力の賜物と言えます。
ただ、これまでこの取り組みが発表されてから一度も出走を表明する地方馬はいませんでした。
そうした中、6年目となる2023年にようやく挑戦者として名乗りをあげたのがマンダリンヒーローでした。
とはいえ、大井競馬としても勝負にならない馬を送る訳にはいきません。
あまりにも能力で劣る馬を出走させた場合、レースの格が落ちますし
提携関係にヒビが入ってしまう可能性もあるからです。
そのため大井競馬の馬がサンタアニタダービーへ出走するには、明確な基準があります。
大井競馬で実施されるレースにおいて、予め決められているレースポイントを200ポイント以上集める必要があるのです。
これは大井競馬のトップクラスの馬でないと集めることができません。
例えば交流G1を制しても150ポイントしか獲得することができず、2着だと60ポイントと半分以下になってしまいます。
そのため定められたレースで複数勝たないとなかなかポイントを貯めることができないのです。
そうした中でマンダリンヒーローは新馬戦、そしてハイセイコー記念を勝利したことで190ポイントを集め
さらに雲取賞で2着となったことで60ポイントを上積みしました。
これにより250ポイントとなり、マンダリンヒーローは条件を満たしました。
あとはサンタアニタ競馬場との最終確認がありますが、
これまでの実績を考えると出走は問題なく認められるはずです。
ちなみに気になる遠征費ですが、基本的には主催者負担となる予定で馬主には負担が発生しないようです。
通常米国への遠征となると1000万円単位で費用が発生するため、
なかなか地方競馬の馬で挑戦することは難しいものがありました。
しかしこうして主催者が後押ししてくれるのであれば、挑戦としては悪くなさそうです。
このような大井競馬の取り組みによって、マンダリンヒーロー陣営はあまりリスクを背負うことなく
米国遠征へと進むことができるのです。
では、マンダリンヒーローは本場米国で勝負になるのでしょうか。
サンタアニタダービーの勝算は

陣営は「好走して、その先にあるケンタッキーダービーへ出走できたらと思っています」と語っており
ある程度勝負にはなると考えているようです。
確かにまだ底を見せていないポテンシャルによっては好勝負が可能となるかもしれません。
ただ、これまで戦ってきた相手との比較で考えると、掲示板まではいける可能性はありますが
勝つまでは厳しいようにも思えます。
まずマンダリンヒーローが初めて負けた、ヒーローコールをものさしにして考えてみましょう。
ヒーローコールは2022年末に全日本2歳優駿に出走し、4着に敗れています。
そしてこのレースに勝利したデルマソトガケは、2月にサウジダービーへと遠征し
米国のハヴンアメルトダウンに続く3着となっています。
ではこのハヴンアメルトダウンが米国でどの程度の強さなのかというと、確かに一線級の一頭ではありますが
G1では2着に敗れており、完全なチャンピオンクラスとまではいきません。
このハヴンアメルトダウンに負けたデルマソトガケに対し、ヒーローコールは0.9秒差で敗れています。
そしてそのヒーローコールに0.2秒差で負けたのがマンダリンヒーローだと考えると
単純計算でマンダリンヒーローはハヴンアメルトダウンに1秒以上離されてしまう計算になります。
もちろん競馬はそんな単純ではありませんが、アウェイの地で戦うということも考慮すると
米国3歳の一線級を相手にした場合、掲示板までは狙えるかもしれませんが勝利の可能性はあまり高くないと言えそうです。
ただ、地方競馬に所属する馬が米国に挑戦することは、これまでにない新しい取り組みと言えます。
海外遠征のノウハウも増えますし、
もしここで良い結果を出すことができれば、今後も同じような挑戦は増えていくはずです。
地方競馬の売上が好調なことも、主催者側が遠征費用を出す理由の1つであることは間違いなく
今の内にどんどん新たな挑戦をする馬が増えてほしいところですね。
ちなみにマンダリンヒーローの近親にはクロフネミステリーという馬がいます。
彼女は中央の1500万下条件を勝った後、アメリカに遠征をし3着に健闘しました。
そのため母系から見ても米国のダートは合いそうではあります。
現実的には厳しい挑戦になるのかもしれませんが、
ぜひ良い意味で想像を裏切る走りを見せてもらいたいと思います。